大切なのは失敗から学ぶこと。

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book marks MAGAZINEのメインコンテンツ『“あの人”のおすすめ本』第6弾。
第6弾は、フィンテック領域でトップクラスの業績を誇る株式会社Finatextホールディングスの林 良太社長におすすめ本をインタビューしました。まずは林社長のプロフィールからご紹介します。

氏名 :林 良太
◯会社名:株式会社Finatextホールディングス
◯役職 :代表取締役CEO
◯経歴 :2008年東京大学経済学部卒業後、英ブリストル大学のComputer Scienceを経て、日本人初の現地新卒でDeutsche Bank Londonに入社。ロンドン、ヨーロッパ大陸全域にて機関投資家営業に従事した後、ヘッジファンドを経て2013年12月に株式会社Finatext(現・株式会社Finatextホールディングス)を創業。現在は持株会社であるFinatextホールディングスの傘下にフィンテックソリューションを開発・提供するFinatext、オルタナティブデータ解析のナウキャスト、証券プラットフォームのスマートプラス、次世代型デジタル保険のスマートプラスSSI等を擁し、「金融を“サービス”として再発明する」をミッションに、パートナー企業とともに金融におけるデジタルトランスフォーメーションを推進している。

◯twitter :@Ryota


人生で最大の後悔はちゃんと勉強しておけば良かったこと。

—林社長のこれまでの経歴を教えてください。

林社長 

林社長 東京大学経済学部を卒業後、留学を経てドイツ銀行ロンドン投資本部に入社しました。そこでアルゴリズムトレーディングのシステム開発に従事しました。その後に機関投資家営業に移り3年ほど従事した後、ヘッジファンドで1年半ほど、シンガポール・ロンドン・日本を拠点にアライアンスや営業に従事し、2013年12月にFinatextを設立しました。
事業内容としては、資産運用と保険の基幹システムを提供するSaaSをやっていて、金融サービスのDXを支援する事業、イメージとしては「金融サービスにおけるAWS」を作っている会社です。
メンバーとしてはグループ全体で200名弱、約6割がエンジニアです。累計資金調達金額は90億を超えています。現在はFinatextを始め、複数の企業をFinatextホールディングスとしてグループ化し、その代表を務めています。




—ありがとうございます。いくつか事業をされていますよね?

林社長 そうですね、フロント開発を含めたフィンテックソリューション事業と、証券および保険領域での金融インフラ事業、そしてデータ活用事業の計3つの事業をやっており、それをベースとして総合的に大手金融機関や大手企業に対して、金融サービスの構築をエンドトゥエンドで支援している会社です。


—ありがとうございます。創業されたきっかけを教えてください。

林社長 

はい。ロンドンの投資銀行に在籍していた当時、日本のマーケットのプレゼンスがまったく感じられず、「日本の金融サービスってなんでこんなに競争力が低いのだろう」と感じていました。多くの日本人が「金融」に感じる難しさや抵抗感を払拭するため、金融サービスをもっと使いやすくしなければならないと思い、起業を決意しました。僕は仮説として、金融サービスが使いやすくならない理由は「金融の基幹システム」にあるのではないかと考えていました。そういった思いを抱えて2013年に創業し、模索しながら、満を持して2018年に証券の基幹システムのサービスを本格的にローンチし、証券会社を立ち上げ、その後保険会社も立ち上げてきました。

まだまだ道半ばではありますが、僕らの事業を通して、日本の金融の競争力を上げたいと思っています。ITの急速な進展に伴い、今まで数十年かけて作り上げてきた基幹システムは複雑化し使いにくくなっています。この複雑化した基幹システムをアップデートしないと人々の金融体験はよくならないと思っていて、金融サービスに共通して必要となるインフラ部分をas a Service化する、つまり金融サービスをAWS化していきたいなと考えています。




—資金調達もたくさんされてますよね。今後の展望を教えてもらえますか?

林社長 20年くらいのスパンで考えた時、僕らが日本の金融サービスのスタンダードになりたいと考えています。既に、LINEさんなど金融機関ではないサービサーの方々も金融サービスを提供していますよね。金融機関はサービサーの黒子に徹していくため、今後ユーザーとの接点がなくなっていくと思います。そうなった時、金融機関はテクノロジースタックになっていくというのが今後のトレンドだと思っているので、非金融事業者が金融サービスを容易に提供できる世界を作っていきたいです。それを実現するために、事業を大きくして、将来的に上場も経て、会社としての資本力を拡大していき20年以内に日本の金融のスタンダードになっていきたいです。


—凄まじい林社長の経歴ですが、大学時代はどんな学生だったんですか?

林社長 

僕は高校生の時、めちゃくちゃ成績が悪かったんですが、センター試験の時に神様が舞い降りて、奇跡的に良い点数を取れたんです。満塁サヨナラホームランで東大に受かったと思っています。
大学時代は正直、調子に乗っていたと思います。所属していたテニスサークルにはちゃんと行っていましたが、勉強はしませんでしたね。人生で最大の後悔は大学生活の最初の時にちゃんと勉強しておけば良かった、ということです。
高校当時、同じく東大を目指していた同級生がいたのですが、一緒に合格することができず、彼は別の大学に進学しました。その彼とたまたま大学2年生のときにご飯にいったんです。そしたら、彼は学生団体を設立したり、海外の協力隊をやるなどめちゃくちゃレベルアップしていて。その時、彼と自分とは天と地ほどの差があるなと思いました。僕はもっと努力して、もっと成長しなくてはいけないと思い、それがきっかけで学生団体を自分で設立したり、ホームページの受託会社を作ったり、とにかく行動しました。その時の仲間が今何人かFinatextに合流しています。
就職活動に関しては、王道の企業へ就職することを目指し外資コンサル企業を受けました。しかし、一次試験から全て試験内容が英語だったため、英語が全然わからなかった当時は面接について行けなかったんですよね。そのタイミングで、「就職するどころか、英語がわからないと話にならない。これからの時代はグローバルだ」と実感しました。




—すごくリアリティがあって、為になる話ですね。それからどう行動していったんですか?

林社長 僕から見た東大生って尖ったことをする人が少ない印象で、無難に皆と同じように優良企業に就職するという人が多くて。僕はどちらかというと尖っていたいタイプなので、人と変わったことがしたくて、海外で働きたい!と思ったんですよね。安易な考えですが、英語を覚えられるし、成長できる機会がたくさんあると思って(笑)。
それでまずは留学しようと決意し、英語の本場であるイギリスの大学を受けなんとかコンピューターサイエンスの大学に入りました。留学の目的は、海外企業への就職だったので、そこで1年間ほど修行して、そのタイミングで色々な企業を受けました。
結果的に就職できたのがドイツ銀行でした。当時リーマンショックで社員が減り、新卒を雇う人数がすごく多い時期だったんです。採用面談の時も全然英語ができなかったんですが、日本人だったことや、キャラが濃かったことなどが採用してもらえた要因だったのかなと、今となっては思います。当時のオーストラリア人の面接官には、『俺の人生を変えてくれてありがとう』と言いたいです。




—英語を使えるようになるために、その行動に至ったわけですよね。凄すぎますね。

林社長 今考えると我ながら行動力があったなと思います。 ドイツ銀行時代は、リーマンショックで本当に人が少なく、入って半年でヨーロッパ全域の責任者になったんです。
30日の内、20日は海外出張。それを1年くらいずっと続けていました。その間、ずっと飛行機生活とホテル生活をしてましたね。

当時、僕が24、5歳くらいで責任者をやっていて、周りで働く人達は大体僕より30歳以上年上、という環境だったので、周囲から注目されるんですよ。
お客様や同僚含め自分より経験がある人ばかりに囲まれていたので、素直に「全然わかりません」と伝えることで皆がたくさん教えてくれて、3ヶ月ほどで情報をある程度インプットしてました。




毎週1%レベルアップしたら、単純に1年間で50%以上レベルが上がる。

—ありがとうございます。それでは林社長の人生に影響を与えた本を教えてください。

林社長 はい。マシューサイド(著)『失敗の科学 失敗から学習する組織、学習できない組織 』という本です。弊社の行動原理は5つあるんですけど、そのうちの1つに「アップデート×無限大」があって、アップデートし続けようということなんですね。うちの会社は他責の文化が”0″なんですよ。失敗した場合、なんで失敗したのか?どうすれば失敗しなかったのか?を毎日行っていて、PDCAを回しまくってるんですよね。その文化を会社に導入したきっかけが、この本です。


—会社の行動原理に落とし込むまで影響を受けた本なんですね、おすすめのポイントを教えてください。

林社長 簡単にいうと、「失敗からどう学ぶかが大事だよ」ってことです。この本の最初のくだりは、ある旦那さんの奥さんが簡単な鼻の手術ミスで死んでしまう話から始まるのですが著者のマシューサイドさんがこの旦那さんなんです。簡単な手術で当日夜には帰ってくるはずの妻が死んでしまった。そこから何か学べますか?って、仕事上の話ではなくいきなり身内で起きた不幸から始まるんです。

マシューサイドさんが分析してみると、色々な要素が複雑に絡み合っていて、それぞれに対して事前に対応をしていれば事故は防げていたんです。つまり、きちんと振り返れば絶対に起きなかった事故なんですよ。同様の例として飛行機事故も出てくるんですが、飛行機事故って現代だと墜落の可能性は本当に低い。自動車や自転車よりもよっぽど安全なんですよ。でもそれって最初から安全だったわけではなくて、事故が起きた後に「何が悪かったか」を航空会社が死ぬ思いで振り返ってるんです。

この本はどちらかというと方法論より思想を教えてくれる本ですね。例えば起業してメンバーが増えて、そのメンバーが何か大きいミスをしてしまったとして、会社が経済ダメージを受けたときに、そのメンバーがどう責任を取るべきかっていうのは難しい話ですよね。構造的にどうしようもないとか、運が悪かったなどがあると思うので、全てその人の原因かと言われれば難しいことも多々あります。ただ一方で、今回は仕方なかったと済ましてしまうと組織が緩みます。バランスがとても大事で、責任を全く問わないと組織が緩みますが、厳しすぎると萎縮してしまう。そのバランスを取るのがリーダーなんですよね。

この本からはそういった部分にすごく感銘を受けました。特に弊社はプロジェクトが同時進行でたくさん走っています。誰しも面倒くさかったことや辛いことは忘れたくなるので、振り返りはせず次のプロジェクトにいってしまいたくなります。
しかし、何がいけなかったのかを社内のナレッジにしていくため、プロジェクトごとにしっかりと振り返りを行うようにしています。毎週1%レベルアップしたら、単純に1年間で50%以上レベルが上がるんですよ。数年経つと数倍にレベルは上がってますよね。これって凄いことだと思います。
この本は自分の仕事術としてめちゃくちゃ学んでる本ですね。創業したてのベンチャーってどんどん前だけをみて進んでいけ!というイメージですし、僕もそうでしたけど、これは5年くらい経営していて気づいたのですが、振り返りをしながら前に進んだ方が速いと実感しています。
やってきたことがそのまま学びになり、次に同じ失敗を繰り返すことがなくなれば、それ以上にコスパがいいものはないですからね。費用対効果が間違いなく一番いいです。

—これは社会人の方には是非読んでもらいたい本ですね。この本に出会ったきっかけを教えてください。

林社長 この本には起業してから出会いました。年間60冊は絶対読んでまとめています。いくつか本を読んでいく中でわかったのは、本って大体他の本を引用するんですよね。そして引用してる本の大元を辿っていってこの本を見つけた感じです。正直、影響を受けた本は他にも無限にあります(笑)。でも他の人が選ばなさそうなものを今回選びました。

—個人的に気になるのですが、どのようなアウトプットをしているのでしょうか?

林社長 Mediumというブログサービスに書いてまとめてます。KindleとかiPadでハイライトして、自分なりに解釈して書いておくと、理解が深まると思ってます。
本を読むのは習慣になってますね。本を読まなくても明日困らないし、明日得にもならないんですけど、読み続けていると1年後くらいに取り返しのつかないくらいの知識や思考の差がつくと思います。
創業当時メンバーに、とある事業をどうするかと聞かれたときに、答えられなかったことがありました。社長としてこれはダメだなと思い、焦りましたね。僕は焦ってからの行動力がすごいあると自負しているので、誰にも見られなくてもいいから勉強を継続しようと決めたんですね。言い訳なしで本を月5冊読んで必ずまとめようと決めたんですよ。本当にしんどいんですけどね(笑)。1,000冊までやるって決めています。

ネガティブな感情は意味がない。

—ありがとうございます。この本をどのようなビジネスパーソンに勧めたいですか?

林社長 この本は、会社に入社したての22歳〜25歳くらいの人に勧めたいですね。この思考を知っているかどうかでその後のレベルに差がつくと思っているので。現代は情報社会だから、常に新しい情報が溢れています。新しいことばかりを見ようとして、過去を振り返り学ぶことってなかなかやらないと思うんですよ。自分がやってきたことを振り返ってチューニングするって意外とできない人が多いと思います。僕自身もそうでしたから。
あとは自分の成長が実感できていない人にも勧めたいです。「伸びない」というネガティブな感情を持ち続けて立ち止まっているのは勿体ないです。没頭することが全ての悩みの解決になるので、とにかく振り返るという行動をし続けるだけで、気づいたらレベルアップしていると思います。

—すごく為になるお話をありがとうございました。
最後に林社長の最終目標を教えてください。

林社長 僕が日本で目標にしている経営者は稲盛和夫さんです。
稲盛さんのように社会を公器として見て、社会にいかに良い影響を与えるかを考えています。また、会社をやるからには、この世界に爪痕を残したいと思っていて、インパクトのあることをやり続けた結果、皆が幸せになれば良いなって思います。

最後に

第6弾は、フィンテック業界をリードするスタートアップの1社である、株式会社Finatextホールディングスの林 良太社長にお話をお伺いました。林社長は、一つ一つの言葉が力強く、行動することへのエネルギーに満ち溢れた非常に素敵な方でした。新しいことや情報に目が行きがちですが、失敗や過去をしっかり振り返ることが成長への近道なのではないでしょうか。今回ご紹介いただいた本は、特に仕事を始めたばかりの若手ビジネスパーソンにおすすめできる本です。是非お手に取りお読みいただければと思います。

林良太社長とbookmarks運営にて